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【第2部】 第1話 予兆……①

last update Last Updated: 2025-08-26 07:01:00

 私はベッドの上で、深い眠りについていた。

 時刻は、真夜中の丑三つ時。

 ――ゴトッ、と物音が聞こえた。

 ガバッと上半身を起こす。

 え、今の音……何?

 暗闇に神経を集中させ、耳を澄ませる。

 何を隠そう、私はかなりの怖がりだ。

 幽霊の類は超苦手。

 真夜中、静寂、暗闇、物音。

 こんなに怖い条件がそろっていて、何事もなかったように眠れるわけがない!

 私はバクバクする胸を押さえながら、キョロキョロと辺りを見渡す。

 けれど、月明かりに照らされた部屋は、見慣れた風景のまま静まり返っている。

 特に変わった様子は、ない。

「き、気のせいか……そうだよ、きっと気のせい」

 無理やり結論づけると、さっきまでの恐怖をなかったことにしようと布団に潜り込んだ。

 ――ゴトゴトッ。

 さっきよりも大きな音が、部屋の中に響く。

 ひぃー! 助けて、ごめんなさい!

 恐怖が絶頂に達した私は、何に謝っているのかもわからないまま、ひたすら心の中で謝り続けた。

 頭から布団をかぶり、目をぎゅっと瞑りながら、念仏のように「ごめんなさい」を繰り返す。

 そして、ふと思う。

 あれ? ちょっと待て。

 今の音……どこから聞こえた?

 おそるおそる布団の隙間から顔を出し、音のした方向へ視線を向ける。

 机の引き出し。

 あの辺りから、だよね?

 その引き出しには、あの指輪がしまってある。

 そう、ヘンリーから貰った指輪だ。

 ごくりと生唾を呑み込み、私は意を決して布団から抜け出した。

 そろりそろりと、机へと近づいていく。

 机の前に立ち、引き出しをじっと見つめる。

 震える手を伸ばし、恐る恐る取っ手に手をかけた。

 ええい!

 思い切って引き出しを開けると、その瞬間、強烈でまぶしい光が溢れ出す。

 部屋の中は、昼間のように真っ白に照ら

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